指しゃぶりが歯並びに与える思わぬ影響

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なかなかやめられない子どもの指しゃぶり。小さなお子様のいるお父さん、お母さんの中には、指しゃぶりによって何かしらの影響が出ないかと気にされている方も多いのでは? 今回は指しゃぶりの習慣によって子どもの成長にどんな影響があるか、また指しゃぶりのやめさせどきなどについてお伝えします。

■お腹の中にいるときから指しゃぶりは始まっている

赤ちゃんがいつから指しゃぶりを始めるのかというと、それはお母さんの胎内にいるときから。赤ちゃんにはおっぱいを吸うための吸てつ反射というものが生まれながらに備わっていますので、指を吸うという行為も本能的なものといえます。1歳から2歳頃まではその本能が消えずに残っているのです。

■どんなときに指をしゃぶるの?

・眠たいとき

眠気を感じた子どもは、母親のおっぱいを飲んでいるときと同じ状態を求めるようになります。親指を吸う子どもが多いのは、その形状がお母さんの乳首に似ているから。お母さんのおっぱいによく似た親指を吸うことで、眠る前に気持ちを落ち着かせるのです。

・さみしいとき

子どもはさみしさによって生じる心の不安定を、指をしゃぶることによって落ち着かせます。かといって、子どもが大きくなってからも指しゃぶりがやめられないのは、必ずしも愛情が足りないからというわけではなく、単に幼児期の癖が抜けないだけということもあります。

子どもが指をしゃぶる心理的背景には、「さみしい」というのと「眠い」というのが大きくあります。
いずれにしても子どもが気持ちを落ち着かせたい、安らぎたいと感じているときに指を吸い始めることが多いようですね。

■指しゃぶりによる影響にはどんなものがあるのか

指しゃぶりが子どもの成長に与える影響は、主に歯並びやあごなど口元に現れます。指をしゃぶるたびにあごや歯に強い力が加わっているためです。口元や顔が成長によって大きく変化するのは5歳ごろから。その頃になっても指しゃぶりがやめられないと、あごの変形や歯並びにも影響してくるようになります。そうなると単なる容姿の問題だけではなく、話し方(発音)や呼吸、食事のときにものを噛んだり、飲み込んだりという、お口の機能面にまで影響を与えてしまいかねません。
ここでは、指しゃぶりが子どもの口元にどんな影響を与えるかを具体的に挙げていきます。

・前歯の噛み合わせができなくなる

指をしゃぶる際に前歯で指を噛みしめたりすることがありますね。そうなると、前歯には当然大きな力が加わることになり、上下の前歯を噛み合わせたときに、通常はない隙間がぽっかりと開いてしまったりすることがあります(開咬・かいこうと言います)。こうなると前歯ではものを噛めなくなってしまいます。

・出っ歯

歯列矯正のときのように、歯は持続的な力を加えることによって生えている場所を移動させていきます。指をしゃぶる際には特に前歯に力が加わっていますので、そのぶん前歯が突出してしまうのですね。

・交叉咬合

上下の奥歯の位置が横にずれてしまい、噛み合わせたときにちょうど交叉したような状態になることを交叉咬合(こうさこうごう)といいます。指をしゃぶるときに奥歯が頬の筋肉によって押されてしまい、上の歯並びが異常に狭くなってしまうことで起こります。上の歯並びと下の歯並びの幅が違うので、うまく噛み合わせができなくなります。

・発音がしにくい

上記の開咬のように、指しゃぶりによって上下の前歯のあいだにすき間ができてしまうと、ものを言うときにそのすき間から舌が出てきてしまい、発音がしにくくなります。いわゆる「舌たらず」の状態です。特にサ行やタ行、ラ行の発音がしにくく、話すときにも唾が飛びやすくなってしまいます。

・唇がめくれる

指をしゃぶることによって出っ歯になると、上唇がつね歯に押されるような形でめくれ上がってしまうことがあります。俗に言う「タラコ唇」の状態です。

・食事のときにくちゃくちゃと音を立てる

出っ歯や開咬で前歯でものが噛みにくくなっていると、食事のときにどうしても口が開いてしまい、結果噛んでいるときの音が大きく響いてしまいます。

・口呼吸をするようになる

いつもぽかんと口を開けているお子さんがいますね。それは出っ歯や開咬によって口が閉じにくくなっているのが原因のひとつです。いつも口を開いていると鼻ではなく口で呼吸するようになります。口呼吸にはさまざまな悪影響があるといわれていますが、主なものを挙げると、

  • 口臭が強くなる
  • ウィルスや細菌を取り込みやすくなる
  • 冷え症になる
  • 虫歯になりやすい
  • 顔立ちにしまりがなくなる
  • 酸欠になる
  • いびきがひどくなる

などがあります。口呼吸は子どもだけではなく大人にも見られますので、鼻の通りをよくしたり歯並びを治すなどして早めに鼻呼吸に治すことがすすめられています。

■指しゃぶりのやめどき

あごの骨格に影響が出てくるのは5歳ごろから。永久歯に生え変わるときにも歯並びが悪くなったりと影響が出ます。乳歯しか生えていない3歳頃までは将来的な歯並びには影響はしませんが、その頃から大人の言葉が理解できるようになるので、少しずつやめさせていくようにしましょう。

・1歳~3歳

この頃の指しゃぶりは先述の「吸てつ反射」の名残なので、それほど神経質になる必要はありません。

・3歳~5歳

保育園や幼稚園などで社会性が生まれると、自然に指しゃぶりがおさまる子どももいます。その子自身の世界が広がり、さまざまなことに興味をもつようになるので自然に指をしゃぶる癖が抜けていくのですね。また、子どもの心にはじめて「恥ずかしい」という意識が生まれる時期でもありますので、「お友達がいるときはおしゃぶりやめようね」などとやめるきっかけを作りやすい時期でもあります。

・5歳以降

この時期の指しゃぶりは二つのパターンがあります。
ひとつは乳児期からの指しゃぶりが「癖」になってしまってやめられない場合と、
もうひとつは環境や子ども自身の心の状態に何かしらの問題がある場合です。
いずれにしても、やめさせるには大人からの働きかけが重要になります。
一度はやめることができたのにも関わらず、その後また指しゃぶりの癖が再開した場合は環境や子ども自身の心の状態に問題がある可能性があります。

■指しゃぶりの癖をやめるために、親ができること

指をしゃぶっていたらやめるように言う、それができたら褒める
外で遊ばせてみたりして、他のことに興味を持たせる
子どもが眠る前は傍にいて、寝つくまで手を握ったり本を読んであげたりする
眠っているあいだに指をくわえていたら外しておく
などの方法があります。また、指人形をはめたり、爪にバイターストップ(苦味のあるマニキュア)を塗ったりとグッズに頼るのもひとつの手です。

■指しゃぶりによって歯並びが悪くなってしまったら

・総乳歯の時期(6歳ごろまで)

まずは指しゃぶりをやめるのが一番です。たとえ乳歯の並びが悪くても、早めに対処すれば永久歯では正常になる場合があります。5歳頃ならまだあごへの影響もそれほど心配する必要はありません。

・永久歯が数本生えてきている時期(6歳~11歳)

歯並びやあごの成長に問題がある場合、この頃から矯正歯科にかかることができます。この頃ならまだ大掛かりな矯正治療はせず、MFTというトレーニングで改善される場合があります。

・筋機能療法(MFT)

口周りの筋肉を鍛え、正しい飲み込み方や食べ方、話し方ができるようにトレーニングします。指しゃぶりによる口周りの筋肉や舌の動きが歯並びを悪くしますので、トレーニングすることによって歯並びが改善されていきます。

・総永久歯の時期(11歳頃から)

あごの骨格がすでに成長を終えてしまっている場合、あごのバランスを整えていくのが難しいので矯正治療によって歯の位置を移動させていきます。まだ成長期の途中であればあごの成長具合と歯並びのバランスを考えながら矯正治療を進めていきます。

まとめ

先述のように乳児期の指しゃぶりは本能的なものですので、あまり神経質になる必要はありません。ただ5歳を過ぎても指しゃぶりの癖が抜けない場合は、口周りの機能に支障をきたす場合がありますのでやめさせる努力が必要です。大切なのは指をしゃぶる子どもを頭ごなしに叱るのではなく、やさしい言葉でやめるように伝えること。そして子どもがおしゃぶりをせずに過ごせたら褒めてあげましょう。子どもは一度褒められたことをまたくり返します。お子さんが自分でやめようと思えるような環境を作ってあげてください。それでもやめない場合は、何らかの原因がある場合も考えられますので、歯科のみならず小児科や育児センターに相談してみるのもひとつの手です。

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